鶴川6丁目団地の管理組合事務所の屋上に、2024年の3月にソーラーパネルが設置され、5月にその見学会へ参加してきました。ソーラーパネルの仕組みを実際に見学し、その後は団地の管理組合の2023年度理事長と、事業者である町田市民電力株式会社に設置に至った経緯や設置後の感想などをお聞きしました。お話いただいた中から、他の団地の管理組合で設置を検討する際の参考になる部分をピックアップし、まとめました。
ソーラーシステムはどんな仕組み?
ソーラーパネルは第2集会所の屋上に設置され、1枚あたり415kW/hの発電で、直流で18枚のパネル同士をつなぎ、分電盤をとおして第1・第2集会所や、PCS※1、V2H※2へ電気を送っています。
※1Power Conditioning System電力を調整する機器
※2Vehicle to Homeの略で、EV車へ充電とEV車からの放電ができる仕組み
乾電池を並べて使うのと同じように、パネルのうち1枚でも日当たりが悪いと全体に影響する仕組みのため、パネル全てによく日が当たるよう設置する必要があります。
平時は第2集会所の電源の一部に使用され(もちろん、V2HでEV車への充電も可能)、停電時は蓄電池とV2Hが自動運転に切り替わり特定負荷に電気を供給する仕組みになっています。停電時は10kw/h、少なくとも一晩は集会所を使えるくらいの発電量です。
管理組合のお話
2023年度の管理組合理事長と理事に、際にソーラー電源が実使用されている第2集会所でお話を伺いました。
◎鶴川6丁目団地の概要について教えてください。
780戸・30棟で、棟によって間取りや戸数が異なります。管理体制は、棟は棟の住民の管理物、その他の共用部は780戸の全体で自主管理をしています。しかし実際は棟ごとの管理は難しく、すべて管理組合全体で行っています。
◎100年住み続けられるマンションへ向けて、これまでどんなことをされてきたのでしょうか?
団地の建物は築50年を超え、これまで建替えについて10年ほど議論してきましたが、等価交換方式で建て替えを検討すると1住戸当たり1000~2000万円ほどの費用負担になることが分かりました。2000年ごろに、建て替えではなく、少なくとも100年は住み続けられるような団地を目指す方向へとシフトしました。
まずは、2014年に経産省の補助金を得てサッシの改修工事を実施しました。また、2019年・2020年の大規模修繕工事の際、耐震改修工事、北側の壁に外断熱改修工事実施しました。
耐震改修工事については、市町村の補助金(町田市1/4、東京都1/4、国1/2)を使用し、借入はありましたが、東京都が利子補給100%してくれたので住民負担なしで通常の修繕積立金の維持管理の範囲で行うことができました。
その他にも、共用部に防災マンホールトイレ設置や、集会所の一部を和室から洋室に改修するなどの工事を行ってきました。
◎今回のソーラーパネル設置の経緯を教えてください。
東日本大震災の計画停電の際に、夜は真っ暗、避難も難しいという状況でした。そのころから対策を考えており、今回はその延長です。
元々、全ての住戸の電気を賄おうとは考えていません。非常時に集会所で電気が使えれば、住民が涼んだり、暖を取ったり、携帯電話の充電もできると考えました。
また、非常用の電源で助成金も利用できたのは、導入の大きな推進力になりました。資金の半分が助成金ということと、管理組合が管理している棟に設置することから総会の議案に反対はでませんでした。
あと、各住棟の屋上設置することも検討しました。構造計算(管理組合理事に建築士がいる)をしようとしたのですが、設計資料が残っておらず、スラブ(天井)厚も11cmで薄いことから、不安がある中での設置は断念しました。集会所は上に人が乗ってもいいように作られていたため設置可能と判断しました。
◎V2Hを利用した車の充電に関しては、どのようにお考えでしょうか?
今のところV2Hは、平時に住民の車の充電をすることは考えていません。団地の中に電気自動車が増えてきたら検討しようと思っていますが、現在の状況では、充電を有料化するシステム構築の方がマイナスになると判断しています。
というのも、今回使用した東京都の助成金ではV2Hの設置は必須でした。現在のV2Hは6kwの出力で、急速充電(出力50kw)に対応していないのです。例えば、日産のリーフだと満充電に真夏の昼間の太陽光で10時間かかってしまうのです。
管理組合で電気自動車があれば、それ自体が蓄電池になるし、商店街が無くなったときに送迎で使うようになるかもしれません。今後、検討の余地はあるかと思います。
◎設置した感想と、設置のポイントについて教えてください。
まだ設置後間もない(2か月弱)ので、どのくらい電気代が安くなった未検証ではありますが、集会所の電気は現在月に1万円くらいで、そのくらいは賄えると考えています。
今回は補助金があったので、7年くらいで回収ができる見込みですが、設置のコストを電気代で回収しようと思って設置しているわけではありません。もしかしたら、商業電源を買った方が安いかもしれません。今回は災害時の電力を目的として設置しました。何が目的で設置するのかを充分に議論して明確にしないと、実現は難しいかもしれません。
今回の助成金では、売電が不可なので検討はしませんでしたが、近くの企業などに電気を売れれば、収益があるので、また話は変わってくると思います。ただし、売電するには新たな設備が必要になることもあるようです。
今回は集会所の上にソーラーパネル、その近くの共用部にV2Hの設置できる場所がありました。新たな場所を作ってから設置したらとても大変だったと思います。
町田市民電力株式会社の話
マンション管理組合から設置の相談があるのですが、マンション全ての電力をソーラーで賄えると思っているところが多いようです。全てを賄えないなら設置はやめるという0か100かで判断をされることが多く、とても残念に思っています。
今回の6丁目団地は、コンセント1つ1つに対して、これはソーラーで賄えるか?という具合に、段階的に刻んで設置の検討ができたので、実現にこぎつけられたのではないかと考えています。
補助金案内
・今回使用した補助金は「充電設備導入促進拡大事業(非公共用充電)」「集合住宅向け太陽光発電システム等普及促進事業(集合住宅における太陽光発電システム及び蓄電池に関する導入促進拡大事業) 」※この事業は現在募集を行っていません。
・東京都で使用できる補助金については、クールネット東京のHP(外部サイト)をご参照ください。
・地産地消型再エネ増強プロジェクト(都内設置)や、再エネ電源都外調達事業(都外PPA)は管理組合が法人化されていないと使えない
・令和6年度 家庭における太陽光発電導入促進事業「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」は募集中
プロジェクトスキーム
今回のプロジェクトのスキーム
最後に
管理組合の理事長さんの次のようなお話がとても素敵でしたので、最後に共有したいと思います。
当初から住んでいる人たちの高年齢化が進み、一時期は子どもの声があまり聞こえない状況でした。最近では次の世代が徐々に入ってきて、子どもの声が聞こえるようになってきました。
古いままでなく、快適に生活できるように改修、維持管理をしていくと「入居してもいいのかな」と思ってもらえるのではないだろうかと思います。例えば、集会所を和室から洋室に改修し、住民が無料で使用できるように変更したり、ペットが飼えるように規約を変えたり。
ハードだけでなく、ソフトの希望もすくい上げて、住んでいる人が気持ちよく挨拶する、そんな人間関係ができるような住環境にしていきたいと思っています。
【取材協力】
・鶴川6丁目団地管理組合
・町田市民電力株式会社
・まちだ自然エネルギー協議会
村上亜希枝(むらかみ・あきえ)/ライター
団地を愛する宅地建物取引士。多摩ニュータウンの不動産会社でお客様に団地を薦めているうちに、自身がすっかり団地好きに。現在は「 団地に住みたい人を、増やしたい!」を軸に、主に昭和期に建てられた団地の活性化に日々取り組む。趣味は団地巡り、山登り、アクセサリー作り。アキヱ企画代表。
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