【ROOM TOUR】京町家×団地デザイナーズリノベーション。デザイナーとめぐる『凛-RIN-』@花見川団地
- oizumihayaka
- 2 日前
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更新日:10 時間前

だんちぐみ(団地再生事業協同組合)による「デザイナーズリノベーションプロジェクト」の記念すべき第20弾作品『凛-RIN-』が2026年春、花見川団地(千葉市花見川区)に完成しました。ダンチジャーナルでは完成間近のお部屋におじゃまして、このプロジェクトのデザイナー・建築⼠の鈴⽊恵理⼦さんにお話を伺いつつ、お部屋をすみずみまで見学させていただきました。

ダンチジャーナルがこのプロジェクトを取材するのは、2 回⽬。
壁や天井が剥き出しになった団地の⼀室を⾒せていただいたのが、最初の取材でした。デザイナーの鈴木さんは、実はこの『凛-RIN-』の舞台である花見川団地のご出身。自身が育った団地で、リノベーションプロジェクトという新しい挑戦に至った経緯や、故郷への想いなどをお話していただきました。(記事はコチラ)
そして今回、完成直前の住まいを前に、「凜とした現代⼥性がここでどう暮らすか」「帰宅した瞬間に気持ちが切り替わる住まいにしたい」といった、このプロジェクトに込めた考えを、じっくりと聞かせていただきました。
コンセプトは「京都の町屋をイメージした、凜とした現代⼥性のための団地リノベーション」
『凛-RIN-』のリノベーションのコンセプトは、
「京都の町屋をイメージした、凜とした現代⼥性のための団地リノベーション」です。
そのコンセプトを具体的な空間へと落とし込むために設定されたのが、この部屋の住⺠である「凜ちゃん」でした。
凜ちゃんは、凜とした現代⼥性。
外で賑やかに過ごすよりも、家で過ごす時間を⼤切にしています。
ただし、家ではただ気を抜くだけではなく、本を読んだり、考えごとをしたりしながら、⾃分の時間を整えていく⼈です。
「凜ちゃんなら、仕事を終えて家に帰ってきたとき、どう感じたいか」
「どこで⼀息ついて、どこで気持ちを切り替えるのか」
「休⽇は、この部屋でどんなふうに⼀⽇を過ごすのか」
鈴⽊さんは、こうした住まい⼿の暮らしを⼀つひとつ想像しながら、間取りや動線、空間の雰囲気を決めていったといいます。
また、この住まいでは、京町家に⾒られる奥⾏きの感覚や、外から内へと気持ちが切り替わっていく構成が、団地の⼀室というスケールの中で、さりげなく重ねられています。
その具体的な表れについては、⽞関から室内へと進む空間を⾒ながら、あらためて触れていきたいと思います。

1. ⽞関から中廊下:⼀⽇の緊張を⼿放す場所
⽞関を⼊ると、グレーの⽯畳を思わせるクロスが敷かれた、⼟間のような空間が、まっす
ぐ奥へと伸びています。
その先には、やわらかな明かりが⾒えました。
ここは、ただ部屋へ⼊るための廊下ではありません。外の時間から、家での時間へと、気持ちをゆっくり移⾏させるための場所としてつくられています。
この構成は、京都の町屋をイメージしているそうです。
通り⼟間のように、奥へ奥へと視線が引き込まれていくつくり。
あらかじめ決められた⼨法の中で、奥⾏きを感じさせるための⼯夫が、ここからすでに⾒られました。
⽞関正⾯の壁には、アクセントクロスとブラケットライトが設けられています。
その下には、椅⼦や花器、器などを置ける余⽩があります。
鈴⽊さんは、
「疲れて帰ってきたとき、いちばん最初に⽬に⼊る場所なので」と話します。
限られたスペースの中で、帰宅という⼀瞬の体験を、きちんと印象に残すための設えで
す。
⼟間の左右には、それぞれ空間が広がっています。町屋特有の「左右に部屋があり、奥へと続いていく」構成を、団地の⼀室の中で再解釈した形です。
スケルトンの状態では、まだ想像できなかったこの場所が、今回、光と⾊、そして素材をまとったことで、「帰ってくる場所」としての輪郭をはっきりと持ちはじめていました。

2. LDK:気持ちのモードを選べる、暮らしの中⼼
廊下の右⼿に⽬を向けると、団地の南側の景⾊を臨む、LDK へとつながっていきます。
⽞関でいったんほどけた気持ちが、そのまま⾃然に⽣活の中⼼へと導かれるような構成です。
このLDK は、ひとつの⼤きな空間でありながら、使い⽅によって三つのゾーンに分けて
考えられています。
キッチン、⾷事・ワーク、そして、くつろぎのための場所。
壁や段差で明確に区切るのではなく、視線や素材の違いによって、それぞれの居場所がゆるやかに分かれています。
キッチン:無意識に使いやすい動線から考える
キッチンは、⽞関からもっとも近い位置に配置されています。仕事帰りに買ってきた⾷材を、そのまま無理なく置ける距離感です。
冷蔵庫から取り出し、洗い、切り、煮炊きし、盛り付ける。
毎⽇の作業が途切れずに流れるよう、作業スペースの動線が丁寧に考えられています。
鈴⽊さんは、
「毎⽇使う場所だからこそ、意識しなくても使いやすいことを⼤事にしました」と話します。
⾊味は、グレーや⿊を基調とした落ち着いたトーン。
重くなりすぎないよう、明るさとのバランスが取られています。

⾷事・ワーク:くつろきすぎない、ちょうどいい場所
キッチンの正⾯には、奥⾏のあるカウンターが設けられています。⾷事はもちろん、在宅ワークにも使えるよう、コンセントやLAN の配線も⽤意されています。
ここは、あえて「⻑居しすぎない」場所として考えられました。
ダイニングでもあり、デスクでもある。
けれど、完全にどちらかに寄らない、⽇常の中間に位置する居場所です。
「ここに将来住まわれる⽅は、家にいてもずっとだらけている⼈ではないと思うので」
そんな⾔葉が、そのまま空間になったような場所でした。

まったりゾーン:好きなものに囲まれて、気持ちを整える
LDK の⼀⾓には、ソファなどを置いて過ごせる、“まったりゾーン”があります。
アクセントクロスの壁にはピクチャーレールが設けられ、絵やパネルを⾃由に飾ることができます。
キッチンに⽴つと、その絵が⽬に⼊り、⾷事や作業をしているときには、⿊いキッチンパネルが視界に⼊る。
どこにいても空間が単調にならないよう、視線の抜けが丁寧に考えられています。
本を読んだり、飾ったものを眺めたり、団地の上階から⾒える空や景⾊を楽しんだり。
ここは、住まい⼿の気持ちを整えるための場所です。

3.⼩上りスペース:⾝体を預け、気持ちを整える場所
廊下の左⼿には、⼩上りスペースがあります。
段差によって、同じ住まいの中にありながら、⾃然と気持ちのモードが切り替わる場所です。
この⼩上りは、「⾃分の時間を⼤切にする⼈」を強く意識してつくられています。住まい⼿が、仕事や外の世界から戻り、⾃分の⾝体や呼吸に、もう⼀度意識を向け直すための居場所です。
ストレッチやヨガ、ピラティスをすること。
床に座ったり、寝転んだりしながら、⼀⽇の緊張を、少しずつほどいていくこと。
この空間は、そうした⾝体の動きや姿勢を前提に考えられています。
床には、和の雰囲気を感じさせるタイルと、板張りの部分が組み合わされています。
板張りの部分では、低い姿勢で⽇記を書いたり、静かに本を読んだりすることも想定されています。
また、この空間では寝る体勢で過ごす時間が⻑くなることを考え、壁と天井は、あえて暗めの同⾊でまとめられています。
視覚的な情報を抑えることで、包まれるような安⼼感を⽣み出すためです。
布団で寝ることも想定し、天井にはカーテンレール⽤の下地が⼊れられています。
必要に応じてカーテンを取り付けることで、空間をゆるやかに仕切ることができます。
また、⼩上りの⽴ち上がり部分を利⽤して、引き出し収納が2 か所設けられています。
布団や⾝の回りのものを収めることで、⽣活感を表に出しすぎず、空間をすっきりと保つことができます。
この⼩上りは、寝室でもあり、運動の場でもあり、思考を整えるための場所でもありま
す。
⽤途をひとつに決めすぎないことで、その⽇の住まい⼿の状態に合わせた使い⽅ができる余⽩が残されています。
ここは、完全にオフになる場所というよりも、⾝体と気持ちをいったん空間に預け、静かに整え直すための居場所なのだと感じました。

4.ユーティリティ:暮らしの変化を受け⽌める、柔らかな動線
この住まいのユーティリティは、「脱ぐ → 洗う → ⼲す → 収納する」という洗濯の流
れが、ひと続きで完結するように計画されています。
室内には物⼲しユニットが設けられており、天候に左右されず、⽇々の洗濯を家の中で完
結できるようになっています。
クローゼット部分には、棚柱のみが設置されています。
棚板やハンガーバーは、住む⼈の⽣活スタイルに合わせて、後から⾃由に組み替えられる
想定です。
鈴⽊さんは、
「ここを寝室として使いたい⼈もいるかもしれないと思って」と話します。
あえて棚板を固定せず、空間の使い⽅を⼀つに決めすぎない。
このユーティリティは、最初から複数の使われ⽅が成⽴する前提でつくられています。
ユーティリティとして使えば、LDK や⼩上りを、より広く⼀体的に使うことができます。
⼀⽅で、この場所を寝室として使う場合には、⼩上りやLDK が、より⽣活の中⼼となり
ます。
どちらかを「選ばなければならない」のではなく、どちらであっても、暮らしがきちんと成り⽴つ。
その前提が、この空間には組み込まれていました。
洗濯や収納といった実務的な役割を担いながら、同時に、住まい全体の使い⽅の幅も広げてくれる。
このユーティリティは、暮らしに選択肢を残すための、⼤切な⼀室なのだと感じました。


5. ⽔回り(トイレ・洗⾯):清潔感と使いやすさを、静かに整える
⽔回りでは、空間を飾ることよりも、毎⽇気持ちよく使えることが⼤切にされています。
使いやすさと清潔感を、無理なく両⽴させるための設えです。
トイレには、細々としたものを置けるよう、かごなどの使⽤を想定した棚が設けられています。
必要なものを⼿の届くところに収めつつ、空間全体が雑多な印象にならないよう配慮されています。
洗⾯室では、ボウルとカウンターが⼀体になった洗⾯台が選ばれました。
⽔はねしても、さっと拭き取れる仕様です。
毎⽇使う場所だからこそ、掃除のしやすさがきちんと考えられています。
⾊味は、⽩から薄いグレーをベースに、アクセントとして⿊を取り⼊れています。
LDK や⼩上りで使われている落ち着いたトーンから、ここで⼀度、気持ちがすっと切り替わるような配⾊です。

6. 照明計画:空間をつなぐ「明かりだまり」
この住まいの照明計画では、「明かりだまり」を意図的につくることが重視されています。
部屋全体を均一に明るくするのではなく、人が立ち止まる場所や、行為が生まれる場所にだけ、光を集める考え方です。
⼀部分に明かりを落とすことで、その光が周囲へとにじみ、部屋の隅々まで真っ暗になる
ことはありません。
暗さを残しながらも、必要な場所にはきちんと明るさが届く、そんなバランスを意識した
照明計画です。
そのため、ダウンライトの数や配置はあらかじめ整理されています。
天井いっぱいに照明器具を並べるのではなく、あえて照明の数を絞り、天井⾯がすっきり
と⾒えるように計画されています。
また、LDK の光源があえて2 灯セットで配置されているのも特徴です。
これは、明るさを確保するためだけではなく、光に厚みと広がりを持たせるための⼯夫で
す。
⼀灯では⽣まれにくい、やわらかな明かりのたまりが、空間の中に点在するようにつくら
れています。
⽞関では、正⾯の⼀点に明かりが集まり、帰宅した瞬間に視線と気持ちが⾃然とそこへ向かいます。
LDK では、キッチン、カウンター、くつろぎの場所それぞれに、異なる明かりだまりが設けられています。
⼩上りスペースでは、明るさを抑え、⾝体を休めるための落ち着いた環境がつくられています。
⼀⽅、⽔回りでは、清潔感を損なわない明るさが確保されています。
このように照明が、単に部屋を明るくするためのものではなく、住まいの中の動線や、気持ちの切り替えを⽀える存在として計画されています。
帰ってきて、動き、整え、休む。
その⼀⽇の流れが、光の置き⽅によっても、静かに導かれているように感じられました。


おわりに:凜とした暮らしを、団地の中で
今回、『凛-RIN-』の完成した空間を見せて頂き、住まいの中で過ごす時間を、あらためて大切にしたくなるような気持ちになりました。
私は現在、一人暮らしをしている学生です。誰かに注意されるわけでもなく、家の中でどう過ごすかは、すべて自分次第。
その分、気がつくと生活にメリハリがなくなってしまうこともあり、「家で過ごす時間をどう整えるか」は、日々の小さな悩みでもあります。
だからこそ今回、一人の「凛とした現代女性」の暮らしを丁寧に想定しながらつくられたこの住まいに惹かれたのかもしれません。
ここでは、ただリラックスするだけでもなく、かといって常に気を張り続ける必要もありません。
少し身体を動かしたり、静かに考えごとをしたり、ちゃんと休んだり。
その日の自分の状態に合わせて、居場所を選べる余白がありました。
大学の普段の設計の授業では、これまで建物の形や構成を考えることが多く、暮らしの細かなリズムや気持ちの切り替わりまでを、ここまで丁寧に想像した経験は正直あまりありませんでした。
だからこそ、「凛ちゃんだったらどう過ごすか」を起点に、動線や光、空間の性格が積み重ねられていくプロセスは、とても新鮮で、面白く感じられました。
また、この住まいが、どんなライフスタイルの変化も、柔軟に受け⽌めてくれそうだという点にも、⼤きな安⼼感を覚えました。
⼀⼈で暮らすのか、誰かと暮らすのか。
仕事や⽣活のリズムがどう変わるのか。
正直、これから先のことは、私⾃⾝にもまだわかりません。
それでも、『凛-RIN-』の空間を⾒ていると、変化を前提にしながら、暮らしを続けていけそうだと感じられます。
団地という、多様な暮らしを受け⽌めてきた場所だからこそ、その考え⽅が、⾃然に馴染んでいるのかもしれません。
この部屋に住む誰かが、帰ってきて、少し深呼吸をして、その⽇の⾃分に合った過ごし⽅を選べる場所でありますように。
そんなふうに思わせてくれる、静かな⼒をもったリノベーションでした。

おまけ;インタビュー動画
≪information≫
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《 お問い合わせ先 》
『凛-RIN-』特設ページ(外部リンク)
この記事を書いた人

大泉早花(おおいずみ はやか)/ ライター・大学院生
学部の卒業設計では、多文化共生と地域連携による団地再生を提案したご縁で、団地女子会に参加。修士課程ではその研究をさらに発展させ、都市一極集中による高密な住環境とは異なる、団地が持つ豊かな環境を活かし、オルタナティブな住空間とコミュニティの創出について探究したいと考えています。趣味は街歩き、旅行のVlogをみること、映画鑑賞、読書、などなど。団地女子会メンバー。


