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外断熱で変わる「住まいの心地よさ」と「建物の未来」― ビスタセーレ向陽台団地・外断熱見学会レポート ―



2025年10/25(土)に、東京都稲城市(多摩ニュータウン)にあるビスタセーレ向陽台団地で行われた、外断熱改修の見学会に参加しました。外断熱は「冬でも家の中が寒くない」「結露が減る」といった暮らしの改善効果がある一方で、工事費が高くなることや所有者の合意形成、補助金を受ける場合の手続きなど、実際に取り組むには通常より手続きに手間暇がかかる改修方法です。

今回は、実際に外断熱を実施した管理組合の方から、なぜ外断熱に踏み切ったのか、そして住まい心地はどのように変わったのかなどについてお話を伺いました。




落ち着いた緑と調和する、外断熱改修後のビスタセーレ向陽台。柔らかな白い外壁が印象的。
落ち着いた緑と調和する、外断熱改修後のビスタセーレ向陽台。柔らかな白い外壁が印象的。

団地の概要と、もともとの断熱性能

ビスタセーレ向陽台団地は、1993年竣工・築32年の団地です。建設当時から壁の内側には断熱材25mmが入っていましたが、窓は単板ガラス、屋上外断熱防水は、防水は支障ないものの断熱性能は経年で劣化していました。


2020~2021年の大規模修繕のタイミングで、外壁の外側に50mmの断熱材を貼る外断熱工事が実施しました。さらに、1階住戸の床下外側にも断熱材50mmを貼りました。また、屋根はそれに先立ち2019年に再度外断熱防水を実施しました。これらにより、住戸が外気に面している部分は全て断熱化したことになります。



住みながら感じられた変化 ― 玄関を開けた瞬間に、空気が違う

私が特に印象的だったのは、見学会の中でお邪魔した組合員・坂田さんのお住まいです。 見学会の日は、雨で外気温は13℃ほど。しかし玄関を開けた瞬間、「あれ?暖房ついているのかな?」と思うほど、空気がやわらかく暖かいのです(暖房はついていませんでした)。


外断熱によって建物のコンクリートが外気温の影響を受けにくくなるため、室内の温度が安定し、一日中室内温度がほぼ変わらず、朝や夜中も過ごしやすい状態が保たれるのだそうです。

団地全体で行ったアンケートでも、夏は、「帰宅時に家に入ったときの暑さが軽減した」、「窓付近の暑さが軽減した」、「窓や玄関ドアにカビが発生しにくくなった」、「部屋と部屋の温度差が小さくなった」、「よく眠れる」などの感想がありました。


また、冬は「窓や玄関に結露やカビが発生しにくくなった」、「帰宅時に家に入ったときの寒さが軽減した」、「窓付近の寒さが軽減した」、「部屋と部屋の温度差が小さくなった」などの感想がありました。

※編集注;ビスタセーレ向陽台管理組合のHPに改修前後のアンケートが掲載されています




外断熱の要となった施工の工夫

外断熱の施工方法について、興味深い説明がありました。外壁に断熱材を貼る際に採用されたのが、「団子貼り」という貼り方です。接着剤を壁全体に塗り広げるのではなく、部分的に丸く点状に接着剤を配置して貼り付ける方法です。


これにより、


・躯体(コンクリート)の微妙な動きに追従しやすい

・断熱材の裏に6〜7mmほどの空気層ができ、断熱性能が高まる

・万が一雨水が入っても、空気層を伝って下へ抜けるためこもらない


という「呼吸できる壁」に近い状態が生まれるそうです。


さらに、外壁の端部には水切りの“小口”が設けられており、雨だれによる汚れが壁面に残りにくいよう工夫が施されており、5年経過した現在で、ほぼ汚れがありません。


見た目には分かりにくい部分ですが、長く住む住まいをつくる上で、とても大切な工夫です。

赤枠部分が水切りの“小口”。この切り口で雨水(青矢印)を手前に落とし、外壁に伝わらないようにしている。
赤枠部分が水切りの“小口”。この切り口で雨水(青矢印)を手前に落とし、外壁に伝わらないようにしている。
外断熱の仕組みを立体的に示した模型。断熱材の重なり方や水切り部分の工夫を確かめられる。
外断熱の仕組みを立体的に示した模型。断熱材の重なり方や水切り部分の工夫を確かめられる。





現場で見えた外断熱が隠れている場所

外断熱は断熱材が壁の中に隠れてしまうため、完成後は変化が分かりにくい工事でもあります。しかし今回の見学では、実際に断熱材が外側に追加されたことを目で確認できるポイントがいくつかありました。

まず、共用廊下の梁の部分です。既存の躯体に断熱材が貼られているため、梁の断面がひとまわり大きく見えます。叩いてみると、表面の仕上げの下に断熱材があることを感じられました。

また、室外機にも変化がありました。断熱材の厚み分、室外機が廊下側に少し前へ出て取り付けられているのです。暮らしの動線には支障がありませんが、外断熱によって外壁そのものの厚みが増していることがより視覚的に分かりました。


外断熱で外壁が厚くなったため、本来は溝に収まる室外機が持ち上がり、廊下側へ前に出て設置されている。
外断熱で外壁が厚くなったため、本来は溝に収まる室外機が持ち上がり、廊下側へ前に出て設置されている。
外廊下の梁に貼られた断熱材(濃いグレーの部分)。断熱材がないと、梁から外の冷気が室内へ伝わる現象である熱橋が起きやすくなるため、梁まで包むことで冷えや結露を防いでいる。
外廊下の梁に貼られた断熱材(濃いグレーの部分)。断熱材がないと、梁から外の冷気が室内へ伝わる現象である熱橋が起きやすくなるため、梁まで包むことで冷えや結露を防いでいる。





外断熱に踏み切れた理由は「長い目で見たコスト」

もちろん、住み心地のよさだけが外断熱工事に踏み切った理由ではありません。

坂田さんは、外断熱を選んだ決め手をこう話していました。

「長期的に見たとき、工事費が安くなるんです。」

外断熱による効果は、


・躯体(コンクリート)を雨風から守り、建物の劣化を遅らせる

・外壁塗装などの大規模修繕の周期を延ばせる

というものです。

通常は 15年に一度行う外壁改修を、外断熱後は 20年以上 の周期でも維持できる見込みだそうです。この差は、大きな修繕費削減につながります。

さらに、国交省の長期優良化住宅リフォーム補助金を活用し、工事費の約3割が補助されたそうです。こうした点も、住民が賛成しやすい重要な要素となりました。



合意形成は「少しずつ味方を増やすこと」

ビスタセーレ向陽台の外断熱工事は、160戸中130戸の賛成を得て実施されました。とはいえ、団地総会で3/4以上の票を集めるのは気が気ではなく、議決権行使書や委任状を理事や管理会社の協力を得て可能な限り集めました。

坂田さんは、

「合意形成のプロセスで重要なのは、外断熱のメリットを丁寧に共有しながら、理解者を少しずつ増やしていくこと。」

だと語ります。


外断熱には、


・夏の暑さや冬の寒さがやわらぐ(生活の質の向上)

・ヒートショックのリスクが下がる(人の健康に資する)

・建物の劣化を抑え、修繕周期を伸ばせる(建物の健康に資する)


といった、お金に換えられないものと、お金を節約する両面に関わる効果があります。


所有者の合意形成で3/4の賛成を得るためには、


「快適になるなら、やってみたい」「長い目で見て工事費が抑えられるなら、その方が安心だ」


といったような住民の方の納得を少しずつ積み重ね、粘り強く合意を形成していくのが大事だと感じました。


また、お話を聞いていて印象的だったのは、外断熱は頭より体の説得力が大きい工事だという点です。

資料や数値だけではイメージしづらい「室温・湿度の変化」や「快適性」は、実際に体感してみることで、ようやく具体的に想像できるようになるのだと思いました。

住まいの改善は、合理性だけで判断されるものではなく、“こう暮らしたい”という感覚を共有できるかが鍵になるのだと感じます。



おわりに ― 住まいの心地よさは変えられる

外断熱は、ただ室内を暖かくするための工事ではありません。建物を外側から守ることで劣化を抑え、修繕周期を延ばし、長く住み続けられる住まいを維持するための方法です。

今回の見学会で感じたのは、住まいをより良くしていくための選択は、数字や合理性だけでは決まらないということです「ここで気持ちよく暮らしたい」という思いを、住民同士で共有できるかどうか。その積み重ねが、合意形成につながっていくのだと感じました。

外断熱は、これからもその場所に暮らし続けるための、ひとつの確かな選択肢です。


≪information≫

多摩ニュータウンビスタセーレ向陽台団地管理組合



この記事を書いた人

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大泉早花(おおいずみ はやか)/ ライター・大学院生


学部の卒業設計では、多文化共生と地域連携による団地再生を提案したご縁で、団地女子会に参加。修士課程ではその研究をさらに発展させ、都市一極集中による高密な住環境とは異なる、団地が持つ豊かな環境を活かし、オルタナティブな住空間とコミュニティの創出について探究したいと考えています。趣味は街歩き、旅行のVlogをみること、映画鑑賞、読書、などなど。団地女子会メンバー。






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