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大学運動部のドミトリーに団地を活用。教育×団地の新たな可能性に挑む『竹山プロジェクト』



ダンチジャーナルライターの和田琴子です。私は現在、大学でまちづくりと商店街についての研究を行っています。その中で、大学生と商店街のコラボレーションが成果を上げている団地があると聞きつけ、横浜市緑区の竹山団地におじゃまして、取材をさせていただきました。




竹山団地はJR横浜線「鴨居」駅からバスで10分ほどの場所に位置し、分譲住宅2508戸、賃貸住宅290戸からなる神奈川県住宅供給公社が開発した大規模複合団地です。

 


まずは竹山団地商店街へ!

 商店街は大規模団地の中心部として整備された竹山団地センターゾーンに位置しています。象徴的な「竹山池」を臨むように店舗が配置されており、団地の暮らしを支える拠点として機能しています。


 

池に面して並んでいる商店街の様子。都市部で自然と触れ合える空間はとても気持ち良い。
池に面して並んでいる商店街の様子。都市部で自然と触れ合える空間はとても気持ち良い。

 


竹山団地の商店街には、スーパーなどの食品を取り扱うお店や、歯医者さんや福祉関係の店舗が並んでいます。今回はその中から、ひときわ存在感のある3つの店舗を紹介します。

 


●竹山セントラル



旧銀行跡地を改修し2024年の12月に新たな活動拠点としてオープンした施設。介護予防プログラムやヨガやピラティス教室などの健康イベントが行われるほか、作品を展示できる「ギャラリーストリート」も設けられ、地域住民が交流しながら竹山団地周辺の活動をシェアできる場となっています。



レッドコードと呼ばれる吊り下げ式ロープ使用したプログラムは「きつくないのに効く」と大好評で毎回満員御礼なのだとか。
レッドコードと呼ばれる吊り下げ式ロープ使用したプログラムは「きつくないのに効く」と大好評で毎回満員御礼なのだとか。

 

 

●竹山エアラボ

竹山エアラボ写真。団地の中とは思えない本格的なトレーニング施設の入り口です。
団地の中とは思えない本格的なトレーニング施設の入り口です。

私もトレーニングを体験させていただきました。トレーニングの前後で心拍数を測り、ちゃんと効果を得られているのか確認する本格ぶり。さらに高酸素スペースも併設されており、疲労回復もばっちりなんだそうです。
私もトレーニングを体験させていただきました。トレーニングの前後で心拍数を測り、ちゃんと効果を得られているのか確認する本格ぶり。さらに高酸素スペースも併設されており、疲労回復もばっちりなんだそうです。

 

アスリートが使うような本格的な低酸素トレーニングができる施設。短時間で高い効果を得られる低酸素のトレーニング環境に加え、データを分析しながら効率的にトレーニングを行うことができるのが特徴です。実際に通う住民からは「登山が趣味でそのためのトレーニングに通っている」というお話を伺いました。他にも「階段を休まず上れるようになった」など効果を実感する声が多く寄せられています。また、身体機能の向上をみんなで共有し、一緒に喜び合える距離の近さも団地ならでは。こうした関係性が、トレーニングを無理なく続けられる理由になっているのかもしれません。



 

●竹山キッチン

 

3つ目は、「竹山キッチン」です。地元の食材を使った料理や、スパイスマスターの資格を持つ料理長による特製スパイス料理を手頃な価格で提供する食堂です。地域の憩いの場としても機能しており、取材時には小学生が立ち寄って高齢者の方とおしゃべりをするほほえましい光景が見られました。


大人気のスパイスたっぷりのカレーを実際にいただきました。スパイスの効いた本格派な味わいで、夢中になるうちに完食してしまいました。
大人気のスパイスたっぷりのカレーを実際にいただきました。スパイスの効いた本格派な味わいで、夢中になるうちに完食してしまいました。
料理長(写真左)と素敵な接客をしてくれた店員さんたち。店員のお二人は神奈川大学のサッカー部員です。
料理長(写真左)と素敵な接客をしてくれた店員さんたち。店員のお二人は神奈川大学のサッカー部員です。

 


団地の中で存在感を放つ3店舗には驚くべき共通点があります。なんと、神奈川大学の学生が運営に関わっているのです。


竹山団地の賃貸エリアの一角には、神奈川大学サッカー部の学生約60名が暮らしており、彼らがアルバイトやボランティアとして先に紹介した3つの店舗の運営を担っています。





 「大学生」×「団地」の化学反応。健康・つながり・まちづくり

大学生が団地を舞台にまちづくりに関わるこの珍しい取り組みは、「竹山プロジェクト」という産官学民公(公社)連携による環境整備モデル事業の一環です。


NPO法人KUSC、神奈川大学、連合自治会、神奈川県住宅供給公社といった多様な主体が共通の課題を共有し、それぞれの強みを活かしながら協働することで連携体制を展開しています。



竹山セントラルの運営体制の図 神奈川県公社提供
竹山セントラルの運営体制の図 神奈川県公社提供


その連携の拠点として生まれたのが、先ほど紹介した「竹山セントラル」「竹山エアラボ」「竹山キッチン」の3施設というわけです。

竹山セントラルにて、神奈川大学サッカー部大森酉三郎監督、神奈川県公社水上弘二さん、竹山連合自治会事務局長の高橋明美さんの3者にお話を伺うことができました。


左から順に水上さん、矢田詩織さん(神奈川県公社)、高橋さん、大森さん、筆者
左から順に水上さん、矢田詩織さん(神奈川県公社)、高橋さん、大森さん、筆者

なぜ大学生が団地に? はじまりは大森監督の熱い想いから

大学生と団地がそのように結びついたのでしょうか。きっかけは、神奈川大学サッカー部の監督、大森酉三郎さんの熱い想いからでした。



「サッカー90 分の試合の中で実際にボールが動いているのは 60 分程度。その中で各選手がボールに触れる時間はわずか 1 分 30 秒ほどで、ボールに触らない時間の方が58 分 30 秒と圧倒的に長い。その58 分 30 秒の質を高めることこそ、サッカー選手としても、いち人間としても成⻑に繋がる。」

サッカーの技能だけではなく、人としての根本的な成長を見据えた指導がしたい。練習場に程近い竹山団地のまちづくり活動との連携は、そんな監督の想いが導いたアイディアだったのですね。


竹山団地は高齢化率45%という課題を抱えており、高齢者の介護予防や健康増進、コミュニティの活性化が求められています。

監督は「高齢化は日本全体の課題であり、団地での地域活動への参加は未来の日本で暮らしていく訓練でもある。これは今後サッカーを続けるかに関わらず、学生にとって意味のある大学生活になる。」と考え、神奈川県公社に提案。教育とまちづくりの可能性を感じた公社が連合自治会と共に動き、「竹山プロジェクト」がスタートしました。



神奈川県公社と連合自治会のサポート

この事業において神奈川県公社は、商店街の店舗と、学生が入居する賃貸物件の貸主として重要な役割を担っています。魅力的な店舗の誘致や大学生の居住によって、団地の若返りやイメージアップが進み、空き店舗・空き部屋の解消につながっています。また、商店街全体の利用が増えることで、他店舗の収益向上にも寄与しています。特に、エレベーターがないため空室になりがちだった4階以上の部屋については、大学生への賃貸によって空室率が大きく改善しています。

さらに、この事業の実施にあたっては、県公社がこれまで蓄積してきた住宅・店舗の管理運営のノウハウや、他団地での活性化事業の経験が活かされています。2022年には国土交通省の「住まい環境整備モデル事業」に応募し、採択されるなど、県公社は事業推進の中心的な役割を果たしています。


水上さんからは事業全体のお話、公社が果たした役割をお話しいただきました。このプロジェクトは公社、サッカー部、自治会の3者どちらが欠けても成り立たず、それぞれが1つ1つ緻密に、温かな配慮で構成されているように感じました。
水上さんからは事業全体のお話、公社が果たした役割をお話しいただきました。このプロジェクトは公社、サッカー部、自治会の3者どちらが欠けても成り立たず、それぞれが1つ1つ緻密に、温かな配慮で構成されているように感じました。


一方で、連合自治会は団地住民の視点に立ち、プロジェクト全体の運営やイベント告知の方法について助言を行うなど、さまざまな面で支援をしています。今回のような店舗サービスは、これまで竹山団地には存在しなかった新しい取り組みであり、住民にとってすぐに受け入れられるとは限りませんでした。そのため、利用方法や価格設定が住民の生活感覚とかけ離れないよう配慮し、より利用しやすく感じてもらえるように連合自治会のアドバイスがとても重要です。


高橋さんは、みんなから「明美さん」と呼ばれ、高齢の住民の方々と大学生を結びつける重要な架け橋として、プロジェクトを支えています。調整役として日々さまざまなご苦労がある中でも、常に笑顔で取り組まれる姿に深く感銘を受けました。
高橋さんは、みんなから「明美さん」と呼ばれ、高齢の住民の方々と大学生を結びつける重要な架け橋として、プロジェクトを支えています。調整役として日々さまざまなご苦労がある中でも、常に笑顔で取り組まれる姿に深く感銘を受けました。

力仕事やデジタル教室まで…広がる大学生と団地の交流

竹山プロジェクトは、サッカー部の学生による高齢者向けのスマホ教室や竹山池の掃除、防災活動などから交流がスタートしました。 その後、施設整備が進むにつれ交流の幅は広がっています。

最近では、神奈川大学の建築学部が竹山セントラルとエアラボの設計の際にはコンセプト作りから携わったり、人間科学部が高齢者の社会的孤立と心身の健康に関する現地調査を行ったりと、当初の枠組みを超えたサッカー部だけに留まらない大学生と竹山団地の交流の輪が広がっています。 また、現地での調査データを活かし、竹山セントラルで住⺠向けの運動指導のサポートを行うなど新しい交流の形も生まれています。 取材に実際に訪れた時も、団地内の至るところで大学生の姿を見かけ元気な挨拶が響き渡っていました。



周りに目を向け、関係を育み、自己を磨く。「竹山プロジェクト」がもたらした成長

大森監督から、プロジェクトの成果を象徴するエピソードも伺いました。

沖縄合宿の自由時間、学生たちが訪れた食堂はお婆さん一人で切り盛りしており、昼時には大混雑。

学生たちはお婆さんの「運ぶの手伝って!」の一言に端を発して、料理運びだけでなく、片付けや皿洗いなどを自然に手伝い始めたといいます。

「竹山団地での活動は、ある意味“大人が設けた地域貢献の機会”とも言えます。それでも、その経験を通して身につけた姿勢やスキルを全く別の場所で自発的に発揮できるようになった。このことを感じられたこの話を聞いた時、このプロジェクトを始めてから最も感動しました。」 と監督は語ります。



可能性は無限大。次のステップを目指して

「最近では子ども向けの企画も増えてきて、竹山プロジェクトはまだまだ可能性が広がっています。契約期間でもある10 年はまず頑張り続けたい。そうすればシステムも整理され、プロジェクトも自然と第二ステップに 進んでいくのかなと感じています。」と 3 人は笑顔で未来についてもお話してくださいました。


これほど積極的に新しい年齢層が関われる企画を進めている団地はなかなかなく、新鮮でとても面白く感じました。商店街の若者離れが嘆かれる一方で、実際にここまで一緒に活動している場所はほとんど見たことがなかったので、とても嬉しく感じました。この取り組みはひとつのモデルケースになるのではないかと思います。


予定を大幅に超えてお話を伺ってしまいましたが、みなさん竹山団地への深い愛情を強く感じる時間でした。ありそうでなかった化学反応で団地を明るくし続けている竹山プロジェクトから、これからも目が離せません。




≪information≫

・竹山団地商店街









和田琴子(わだ ことこ)/ ライター・大学生


大学では建築デザインを専攻しています。地域コミュニティについて興味を持ったことをきっかけに団地に惹かれるようになりました。もっと団地のことを知りたいと思い、団地女子会に参加させていただいています。まだまだ勉強中。趣味は一人旅とぬいぐるみ集め。団地女子会メンバー。






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